「防大でいじめ事件があったけど、入っても大丈夫なの?」
「ニュースになったのって氷山の一角でしかないんでしょ?」
近年では毎年のように防大のハラスメント事件が報道されていて、心配する保護者もいらっしゃると思います。
でも、防大のハラスメントについて語る元防大生視点の記事ってあまり無いんですよね。
今回は防衛大学校のいじめ事件について考察し、
保護者向けに防衛大学校は安心して入校できる場所なのか解説します。
この記事は、少しだけ内情を知る筆者が中立的な立場から「防大の安全性」について考察する内容です。
さて、いきましょう!
防衛大学校のいじめ裁判とその後
まずは近年発覚したいじめ事件の概要と、その後防衛大学校でとられている対応について解説しましょう。
近年発覚した2つのいじめ事件の概要
事件発生年 | 2013~2014年 | 2023年 |
事件概要 | 学生間指導と称して体毛にアルコールをかけられ着火されるなど暴力、いじめを受けたもの | いじめが原因で適応障害などになったもの |
被害者のその後 | 2015年3月に退校 | 2024年3月に退校 |
地裁判決 | 棄却 | 棄却 |
高裁判決 | 268万円の損害賠償命令 | 弁論中 |
防衛大学校のいじめ自体は何十年も昔からありますが、有罪判決が出たのは上表の1件目が防大史上初です。
昔は有罪にならなかったんですね。
パワハラ防止法なども含めて時代が変わってきたので、今後は昔では考えられなかったことで有罪判決になることも増える見通しです。
時代が変わってきたということですね
いじめ訴訟後の防衛大学校の対応
2015年の最初の訴訟後も、小野寺元防衛大臣が再発防止に努めるよう防衛大学校に指示しています。
しかし実態は変わらず、2023年の訴訟が発生しました。
2025年では日テレが、防大に7カ月間の密着取材を行いました。
記事(リンク)では、学生長の小堀日輝さんが不適切な指導を根絶するために奮闘する様子が描かれています。
異例ともいえるメディアへの露出ですが、防衛省側もそれだけ事態を重く見ている様です。
なぜ今になってメディアを入れたのか、少し僕の考えを整理しました。
防衛大学校も時代と共に変わろうとしている様子です
防衛大学校から「いじめ」が絶対に無くならない4つの理由
少しずつ変わろうとしている点は事実かもしれません。
しかし残念ですが、防大から「いじめ」は決して無くなりません。
なぜ無くならないのか、4つの理由をお話します。
自衛隊はハラスメントの線引きが最も難しい職業
最も大きな原因は、自衛隊ではハラスメントの判断基準が難しい点です。
一般企業と同じハラスメント基準を自衛隊にも適用してしまうと、自衛隊の仕事が成り立たなくなるケースが沢山あるんです。
とはいえ、防衛省でも対策は取っています。
2020年6月1日に施行されたパワハラ防止法(労働施策総合推進法)は、自衛隊にも適用され、防衛省もパワハラ防止規定を定めています。
防衛省はパワハラを次の様に定義しています。
職務(学校等における教育も含む)の適正な範囲を超えて、隊員に精神的若しくは身体的な苦痛を与え、又は職場環境を悪化させる行為
防衛省・自衛隊 パワハラ防止担当部作成の資料より
具体的には、職業上不要なことや不合理なことを要求したり、脅迫や暴力・障害などがあたります。
しかし、
精神力や体力を鍛えるための訓練や、実際の災害救助活動現場などでは理不尽な要求も達成することが求められる場合があります。
もし達成できなければ、要救助者の救助が遅れてしまったり、隊員に被害が出かねません。
このように、ハラスメントの考え方を一般社会から分けないといけない背景があります。
「いじめ」も同様で、本人が嫌がっていたり、苦痛を感じていても遂行が要求される任務も多様にあるため、一般に言う「いじめ」を全て悪とはできない側面あるんです。
普通の世界とは違うから、考え方も違うんですね
だからといって、全てを容認すべし、と言うつもりはありません。
自衛隊そのものが理不尽主義
そもそも自衛隊って、
理不尽に慣れる力を身に着けることを重要視しているんですよ。
例えば海将の真殿 知彦(まどの ともひこ)さんは、江田島にある海上自衛隊幹部候補生学校の理不尽な生活について作家の瀧澤中さんとの対談の中で次のように述べています。
海上自衛隊が仕事をする海の上というのは、荒波や暴風雨などが突然やってきたりするような理不尽な世界なんです。理不尽な海で仕事をするには、常に備えがなければならないし、きちんと時間の管理ができてないといけない。そして何より体力、精神的なタフさを備えていなければならないんだと。これを聞いて、ああ、江田島の非合理的で理不尽に感じる生活にもちゃんと意味があるんだと学びましたね。
致知出版社 「なぜ〝理不尽〟に耐えるのか——海上自衛隊幹部候補生学校(旧海軍兵学校)に学ぶ強い人材のつくり方」
この人だけじゃありません。
「理不尽な生活に意味がある」と言う自衛隊の偉い人は沢山います。
この考えに否定はしませんが、
果たして上級生からの体罰や精神的な暴力には意味があるんでしょうか?
自衛隊には「どう考えても不合理で非効率な部分」が沢山あるので、少しずつ考え直す人が増えてくれれば環境は変わると思います。
ともあれ、
トップが「理不尽には意味がある」と言っているんだから変わるわけないんですよ。
防大ではいじめの風習が根強い
防大では上級生が下級生を「社会不適合者」「ミジンコ」呼ばわりしながらオモチャのように扱う風習は、それこそ何十年も昔からあります。
近年はSNSが発達しているからよく見かけるようになっただけです。
自分もやられてきたという理由だけで、ただ理不尽な指導を行う上級生が量産されてしまう環境が整っています。
ある日突然指導する側に回るので、適切な指導方法がわからないまま指導させられる仕組みも良くないですね。
被害者が簡単に加害者に転じるのも、防大の怖いところと言えますね。
防大生の名誉のため書いておきますが、
下級生本人のためになる健全な指導を行う上級生も少なからずいます。
長く続いている会社でも同じことが言えますが、
何十年も続いた悪しき風習は、組織を解体しない限り根絶が難しいんですよ。
今後も防衛大学校が続く限り「いじめ」は絶対に無くなりません。
防大では集団の意思が強い
誤解を恐れずに言えば、防衛大学校は一種の宗教施設です。
学生たちの間では、
「幹部自衛官たるは、かくあるべき」
という確固たる信念が、何十年も時を超えて脈々と受け継がれています。
その教義が正しいか誤っているかに関わらず、
教義に背く者は集団で排除しようとする動きがあります。
例えば2024年に問題になったいじめ事件を例にとりましょう。
被害者の適応障害が判明した後で、4年生が被害者に送ったメッセージの一部を引用します。
「お前がなにもしてないのに給料をもらってるのがまじで納得いかない」
TBS News DIG 「上級生が激しくドアを叩き…「おい!出てこい!」 防衛大の元学生“いじめ”の訴え 適応障害で退校 幹部自衛官養成の現場で何が【調査報道】」
「おれはお前みたいなやつを男として絶対認めねぇ」
ここから、
「幹部自衛官たるは、いかなる状況でも適応障害で休むべからず」
という教義が見えますね。
この考えが正しいかどうかはともかく、
怖いのは集団で考え方が同じなので、近くに味方になる人が居ないことなんですよ。
結局この被害者は、適応障害にされた上に退校へと追い込まれました。
誰かが理解者になって仲介するとか、もう少し柔軟に対応出来なかったんですかね・・・。
集団生活の悪い面が現れています
「いじめ」られても逃げられない、防衛大学校を辞める時の注意点2つ
いじめにあっても簡単に逃げることが出来ない点も、防大の怖さの1つです。
簡単に退校できない
防大では入校後の5日間はお客様キャンペーンを実施しています。
新1年生はお客様扱いなので、指導なんてありません。
キャンペーン期間中のみ即日辞めることができるんです。
期間を過ぎると簡単に辞めることはできません。
察しが良い子、自分の適性を短期間で見極められる頭のいい子は漏れなく退校していきます。
5日間で100人以上は辞めますね。
覚悟がキマっている子、見通しが甘い子、逃げ遅れたどんくさい子は、契約書にサインしなければなりません。
契約書にサインしたら最後、もう簡単に辞めることはできないんです。
ぼくは「なんとかなるっしょ、知らんけど」と楽観的に考えていましたね
キャンペーンが終わったらどうなるか、
「辞めたいです」と申し出てから何回も引き留めの面談があり、最短でも1ヶ月はそのまま学生生活を続けることになります。
辞めるその日まで「いじめ」や指導は続きます。
辞めることが確定しているんだったら、教官が上級生に対して対称学生への指導を禁止し、別室で生活させるなどの措置をとれば良いと思うんですよね。
面倒なことは分かるんですが、合理的じゃないですよね
教官は心が折れた子でも引き止め続ける
退校の判断は教官に任されている部分もあるので、教官次第で辞める時のハードルが恐ろしく高くなるんですよ。
何度も「限界だから辞めたいです」と言う学生に対して一切取り合わない教官も実際に見ました。
「だめだ~もう無理~」と弱音を吐く子に発破をかけて頑張らせ、将来的に立派な自衛官になるケースもよくあるので、辞める申し出を頑なに拒み続ける教官は否定できません。
しかし、自衛隊では同様に万が一のケースも沢山あります。
根性論にすがってただ引き留めるのではなく、体系的に判断して万が一を防ぐ仕組みを整えた方が良いと思うんですよね。
人の命を守る生業についているなら、尚更人の命を軽視することはあってはならないと思うんですよ。
残念ながら、縦社会的な日常や学生間指導で心が折れるなら幹部自衛官の素養は無いので、速やかに退校させた方がお互いにとってメリットだと思うんですけどね。
素養が無い子でも引き留めるのは、万が一のリスクと釣り合わないと思うんですよね
防衛大学校に安心して進学するためのチェックリストと、主な退校理由3つ
色々厳しい側面をお話してきましたが、
それでも防大を志すときに、満たすべき条件を確認してみましょう。
どれか一つでもかけていたり、不安になったりする人は適性が無いか、途中でやめてしまうので入校しないことを強くお勧めします。
主な退校理由について、3つ紹介しましょう。
希望の進路につけない
例えば戦闘機のパイロットは花形の職種の一つですが、
そもそもパイロットになれるのは1000人に1人とか、そんな世界です。
何度もあるパイロット適性検査(P適)に全て合格し、空自に配属され、幹部候補生学校卒業時にパイロットが職種になってからがスタートラインですから。
1年次にあるP適に落ちる子も沢山います。僕も落ちました。
配属先は2年次に決まるのですが、陸海空で2:1:1の割合です。
だいたい空自が一番希望が多いのですが、25%の学生しか空自に配属されません。
この様に、そもそも希望する職種につけない人がほとんどです。
自分の夢があることは素晴らしいことですが、夢に固執しないことが防大を続けるための条件です。
日常生活が厳しい
朝から晩まで先輩学生にしごかれます。
人によっては「いじめ」に感じるでしょうが、これは全員が経験することです。
一番辛い時は起床ラッパ前に起きる事でした。
今すぐ逃げ出したい気持ちをこらえて、ホコリまみれの薄い布団にくるまるんです。
頭の中にグルグルと嫌な思いが巡って、それが嫌でしたね。
ラッパ中に起きるんだったら、もう考える暇なんて無いので多少気が楽なんですが。
そんな生活に耐えかねて退校する子がとても多いです。
相当な覚悟と忍耐力を試される学校だと十分理解してから入ることが条件です。
実際の職場を見て嫌になることもある
1年だけ耐えればいいんだよね?
と思うかもしれません。しかし4年生になってから辞める子もいます。
4年次は実際に職場体験をする訓練があるんですが、
パワハラ気質な環境や、無意味に思える作業を永遠と繰り返しやらされる現場を見ると、将来が不安になるんですね。
入校前に自衛隊の職業について十分リサーチすることが求められます。
子供は受験勉強で忙しいでしょうから、リサーチは保護者の協力が必須です。
地方協力本部(地連)の自衛官はアテにしないでください。
彼らは営業マンなので良いことしか言いません。
今ではSNSで様々な人と今すぐ連絡が取れますから、現職の人と相談すると良いです。
Xやインスタなどでリサーチすると良いですよ
Yahoo知恵袋も有効ですね。
防衛大学校のいじめ問題と入るための心得まとめ
防大を卒業すると幹部自衛官になります。
自衛隊の世界ではハラスメントと通常業務の線引きが難しいこと、
さらに「理不尽を耐え忍ぶこと」を美徳としている以上は、
「いじめ」の様な境遇にあうこともよくあることです。
「耐え忍ぶこと」に、ある程度の耐性がなければ、最悪万が一のケースもあり得ます。
万が一というか、表沙汰になっていないだけで数年に1度の頻度で発生しているんじゃないかな。
実は58期にも1名、残念なケースになられた方がいます。
安心して子供を預けられるかと聞かれれば、お子さん次第ですね、という他ありません。
安易な考えや楽観的にではなく、十分な事前調査と十分な覚悟をもって入校しましょう。
最初の5日間なら即日辞めれるので、迷う方は入校5日以内に見極めましょう。
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